家庭医って?

 家庭医(family doctor)?はじめて聞く方も多いかと思います。「先生の専門は何ですか?」と聞かれたら「あなたの専門医です」と答える家庭医もいます。つまり、地域に根ざしたあなたや家族の「かかりつけ医」です。
 欧米やアジアの多くの国では、国民のすべてがかかりつけの家庭医を持っています。実は医療生協の目指してきた地域医療の精神は、家庭医の行う家庭医療に非常に近い考え方に基づいています。日本では臓器別に専門分化する医学教育の中で軽視されていましたが、最近急速にその価値が見直され、専門教育を行う大学や研修機関も増えてきました。川崎医療生協も日本生協の家庭医研修プログラムに参加し、家庭医の育成に力を入れています。

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家庭医がいるとどんな利点があるでしょうか?

 たとえば、こんな例。
 Aさんは脳梗塞後遺症で月に一回大学病院にかかっているが家の中でよく転びトイレに間に合わず困っています。Aさんが昨日から寝込んでおり介護が大変になったAさんの妻Bさんは、ぎっくり腰になってしまいました。そんな時出産の近い娘が風邪をひき孫を預けに来ました。小学生の孫はおねしょ(夜尿症)で悩んでおり、林間学校に行くのが気がかりです。
 これらの問題を解決するためにこの家族はいくつの病院を受診しなければならないでしょうか。家庭医は、Bさんの腰痛の治療を行い孫の夜尿症の対処法を指導しました。娘さんには妊娠中の風邪薬の使い方をいっしょに話し合いました。Aさんの往診をしたところ肺炎の診断で病院に紹介して入院となりました。Aさんは退院後は家庭医に通院し、また介護保険を利用してホームヘルパーの派遣と通所リハビリを行うことになりました。

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家庭医は、家族丸ごと何でも対応します。

 家庭医は、年齢、性別、病気の種類を問わず、赤ちゃんからお年寄りまで、家族丸ごと何でも対応します。診療範囲は内科、小児科、婦人科、皮膚科、整形外科、睡眠や心の問題、その他全ての健康問題の初期対応です。ありふれた病気の約95%は家庭医により解決できると言われています。残りの5%も家庭医を通して適切に専門医に紹介されます。

家庭医は、現代版「赤ひげ」です。

 家庭医は、「身近で、健康なときも病むときも何でも困ったときにまず相談できて、家族丸ごとあなたに合った医療を共に考えて実践する」、そんな「あなたの専門医」、「よろず相談医」。現代版「赤ひげ」です。

家庭医療とは?

 家庭医(family doctor)?はじめて聞く方も多いかと思います。家庭医は患者さんにとって身近な存在で、赤ちゃんからお年寄りまで、年齢性別、病気の種類を問わず家族全員の健康問題に関して幅広く対応します。今回は、この家庭医によって行われる家庭医療をいくつかの分野に分けてお話しします。

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①日常の病気のケア

 風邪・腹痛・頭痛・腰痛・簡単なけが・生活習慣病・健診異常の相談・心の問題など、多くの病気は家庭医によって解決されます。重大な病気が疑われたときは適切に専門医に紹介されます。また、川崎のような大都市近郊で家庭医をやっていると、「すでに大病院や専門医にかかっているがこんな場合はどうすればいいか」などの相談を多く受けます。複雑な日本の医療システムの中で道案内役のような役目も、家庭医の重要な仕事だとつくづく感じています。いわば。「医療ナビ」というところでしょうか。この役目は,協調性や文脈性とよばれる家庭医の専門性のひとつです。

②健康な人のケア

 病気を診るだけでなく、病気の後の再発防止(リハビリテーション・生活指導・薬)、健康増進(乳児健診・成人健診・ダイエット指導など)、予防活動(予防接種・禁煙指導)を行います。大病をした後しばらくは専門医にかかり、症状が安定したり治癒した方に対し、定期検査を含む全身のチェックを患者さんと共に計画します。たとえば、胃ガンの手術から何年もたった方には、家庭医が日常の基本健診や生活アドバイスを行いながら、定期的に専門医と連携をとって胃ガンの再発チェックを行います。

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③家族のケア

 家庭医は特に家族に重点を置いています。「あなた」の生涯にわたって、さらには世代を超えてケアします。たとえば、子育て中の母子の健康は互いに影響し合います。母子を同時に診ることで解決策が見つかることも少なくありません。闘病生活を送っていた方が亡くなった後の、残された家族の心のケア。これもよくあるケースですが、ある日を境に患者さんの付き添いだった方が患者さんになるわけです。グリーフケア(悲嘆のケア)といって家庭医療が専門とする医療です。

④高齢者のケア

 これは家庭医が得意とする分野です。高齢者は複数の病気を持っていることが多く、介護の問題も絡むため専門医にかかることが困難な場合があります。家庭医は、地域や福祉関係者とも連携して、高齢者の問題に幅広く対応します。在宅医療にも力を入れます。

⑤地域ケア

 家庭医療は地域や組合員さんとの関わりなしには進みません。地域にどんな問題があるのか地域の皆さんと一緒に考え、医療者としての立場から健康増進活動を行います。たとえば、医療生協で古くから取り組んできた患者会・公害問題・環境問題などがあります。

「先生の専門は何ですか?」

 家庭医をやっているとよく、「先生の専門は何ですか?」と聞かれます。「とりえのないよろず相談医ですよ。」と答えます。
 家庭医は臓器別の専門医とは何が違うのでしょうか? 家庭医は世界中のありとあらゆるところにいます。そこではみんな違う医療を行っているかもしれません。たとえばDrコトーは往診して、お産もやるし、手術もやります。私は川崎北部ですから、お産はやりませんが、グループホームへの往診もするし、多くの企業健診をします。

 このように場所が変われば医療の内容が変わるのが家庭医です。専門医はそんなことはあり得ません。心臓外科の医師は世界中どこでも同じ医療を行っています。しかしいろんな顔の家庭医たちには実は共通点があります。それが家庭医の専門性と言われ,ACCCCの頭文字で表される5つがあります。

ACCCCの頭文字で表される5つとは?

一つめAはアクセスビリティー(近接性)。
身近であるということです。物理的にも,精神的にも最も近くにいて「あなた」をよく知っている医師です。
二つめCはコンティニュイティー(継続性)。
ずっと、時には世代を超えて、「あなた」と「あなたの家族」をケアします。
三つめCはコンプリヘンシブネス(包括性)。
病気の時も健康な時もなんでも相談に乗り、治療・健康増進・予防を行います。
四つめCはコーディネーション(協調性)。
大病院との連携・地域の訪問看護師・ヘルパー・ケアマネージャーなど、みんなとの連携を大事にします。
五つめCはコンテキスト(文脈性)。
あなたの事情にあわせたケアをします。たとえば在宅ケアや時には専門医の治療を拒否した方のケアなどです。

雑多な仕事をきちんと専門的に行う役割

 これら五つの専門性は、大病院の専門医のそれとは違うことがおわかりでしょうか。大病院の専門医がしっかり臓器を診て、最新で超専門的な力を発揮することができるように、私たちには地域で行う雑多な仕事をきちんと専門的に行う役割があるのです。

「身近で、ずっと、何でも、みんなで、あなたの事情にあわせて」

 家庭医療学では、ACCCCの質を高めるためにはどうすればよいかを研究する分野があります。たとえばアクセス(身近であること)に関する研究では、受診を妨げているのは何だろうか? 遠いから? 医者が嫌いだから? 受付の人が無愛想だから? 女性用トイレがないから? 医療費が高いから? などなど。
 私は以前に「女性は女性医師を求めているのか」という研究をしました。羞恥心に関係ある健康問題では女性医師に相談したい人が多いという結果が出ました。そのことから診療所には少なくとも週に半日以上、女性医師を配置すべきではないかという提案をしたのです。
 家庭医は「身近で、ずっと、何でも、みんなで、あなたの事情にあわせて」ケアを行うことを専門としています。

「麻生さん(50才)のケース」

家庭医は最も身近なかかりつけ医としての機能を持っています。皆さんはかかりつけ医に何を望みますか。
家庭医の川崎医師は麻生さん(50才)一家を長年診ています。麻生さんのお父さんは脳梗塞後遺症で川崎医師が訪問診療を行っています。麻生さんと娘はときどき風邪を引くぐらいで元気、妻は軽い高脂血症で通院中です。
ある時麻生さんは健診時に異常がありその後精密検査で膵臓ガンが見つかりました。病院にかかりましたが思いの外に病状は進行しており手術はできないと言われ大変なショックを受けました。麻生さん家族は川崎医師にどうしたらいいものか相談しました。川崎医師は相談に乗りながら、セカンドオピニオン外来やホスピスの見学を紹介しました。

 結局、抗ガン剤治療を病院で行うことになり、病院の医師と連携して川崎医師も治療に参加しました。副作用のチェックや日々おこるさまざまな問題への対処です。その間にも落ち込んでしまった妻は不眠症になり,脳梗塞のお父さんが肺炎を起こし一時入院し、いろいろなことがありました。その後麻生さんは最期を家で静かに過ごしたいと望み、川崎医師の在宅医療のもと、お父さんの隣で静かに天国へ旅立ったのでした。

「かかりつけ医に求められること」
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 唐津市民病院きたはた(佐賀県)の大野毎子医師は以前に北部東京家庭医療学センターで「かかりつけ医に求められること」を調査し次のような結果を発表しています。
 大野医師によると、かかりつけ医に期待することとして、「物理的な受診のしやすさ」「医学的能力が高い」「心理的な受診のしやすさ」「患者のことをよく知っている」の4つの特徴がわかりました(図) 。つまり最新の機器を備えているとか、最先端の医療をやっているとかではなく、地域にいて私をよく知ってくれていてきちんと診てくれる医師をかかりつけにしたいということなのです。 またイギリスの患者の医療に対する満足度調査で、患者がかかりつけ医をよく知っていることが満足度と関係があることがわかっています。医師と患者がお互いよく知っている関係であることは、かかりつけ機能がはたらくための大前提であると思われます。

「困ったとき頼りにできる医師」

 家庭医は地域で起こる健康問題に最前線で取り組み、よろず相談機能を持ち、患者さんが上手に効果的に医療を受ける橋渡しを行います。困ったときにはまず、いつものあの先生に相談してみよう。いい解決方法がみつかるに違いない。かかりつけ医であるということは、そんなふうに思える医師患者関係を持つなのかなと思います。
 私も家庭医として、皆さまにとって真の「かかりつけ医」となれるようこれからも研鑽を積んでいきます。

「女性医師として、また、母として」

 私は、女性医師として、また、母として二足のわらじを履いてやってきました。診療中に保育園から電話がかかってくることもたびたびでした。患者さんや職場のみんなの温かい理解に助けられてやってこられたと感謝の気持ちでいっぱいです。子育てを通じて、地域社会で生きる一つの家族としての様々な経験(保育園・PTA・街のおまつり・親仲間との交流など)ができたことは家庭医としても大きな糧になっています。
 人生のあらゆる経験が様々な患者さんの生活を理解し病気を理解することに役立つからです。

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「女性の多くが女性医師を必要としている」

 迷惑ばかりかけていて、私の役割ってあるのかなあ?と考えることもありました。そんなとき、「女の先生で良かった。ちょっと聞いていいですか?」という女性患者さんからの声が時々あることに気がつきました。女性には男性医師には言いづらい訴えがあるのではないか?と思うようになり、2003年に、「女性は女性医師を受診したいと思っているのか?」という研究を行いました。その結果、いつも、または場合によって、かかりつけ医として女性医師を希望すると答えた女性は合計73.6%、一方男性の59.7%が性別をどちらでもよいと考えていました。グラフに示すように、羞恥心に関係のある問題では圧倒的に多くの女性が女性医師に診てほしいと答えました。男性ではグラフにあるすべての項目で性別はどちらでもいいと答える人の方が多い結果でした。また女性特有の問題で過去に男性医師を受診した女性のうち、できれば女性医師に診てほしかったと答えたのは59.6%でした。かかりつけの医療機関で診察医の性別を選べない、わからないと答えた割合は男女あわせて全体の76.9%でした。このことから、女性の多くが女性医師を必要としているにも関わらず受診時医師の性別を選べない状況も明らかとなり、患者さんのニーズに応えられる診療体制やサービスの改善も必要と考えられました。

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「女性医師として私にできる役割」

 女性医師として私にできる役割があることがわかり、女性患者さんの今までなかなか言えなかった訴えに耳を傾けようと心がけています。また,少しでも患者さんの生活に近いところで医療を考えられる家庭医になるために、母であること、妻であること、普通の一市民であることを大事にしています。

「あなたは自分の最期の場所としてどこを想像しますか?」

 私の祖父は病気知らずで生きていましたが、その最期はなじみのない病院でした。家で看取ってくれる医師がいなかったからです。このことが、私が医師・家庭医になろうと思ったきっかけでもあります。在宅医療は、多くはお年寄りがその対象となります。

 図1に示すように病気とともに生きていくと、医療の担い手が専門医から一般医(家庭医)へとシフトしていきます。そしてかかりつけ医のもとで、最期は家で過ごしたいと考える方が多くいらっしゃいます。しかし現実には図2のように在宅で亡くなる人は減ってきています。その原因には、高度先進医療(病院医療)が発達し続け、在宅医療を担う医師が全く育っていなかったことと、患者さんやその家族が病院任せの医療に頼ってきた文化があります。
 近年、患者さんがどこで医療を受けたいのか積極的に考えるようになり、急速に在宅医療のニーズが増えています。

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「病気の妻と支えあって幸せな日々を過ごした。この家で死にたい」

 COPDという肺の病気で訪問診療を受けているAさんは83才で一人暮らし。娘が近所にいます。やはり訪問診療を受けていた妻は最終的には入院を希望し、病院で亡くなりました。Aさんに最近肺ガンが見つかりました。頑固なAさんは「入院しない」と言い、娘は「入院させたい」と言いました。医学的には手術は不可能で、余命は半年ぐらいと考えられました。
 ある日、Aさんは医師に言いました。「病気の妻と支えあって幸せな日々を過ごした。この家で死にたい」と。また違う日には,娘さんは医師に話をしました。「一人暮らしのお父さんをできる限り看たいけれど、一緒には暮らせない。がんこじいさんにはほとほと疲れた。入院させてほしい」と。
 医師は在宅医療を続けるべきか悩みました。スタッフ・家族の話し合いで、往診、訪問看護、ホームヘルパー、毎日の家族の訪問などを取り入れて、Aさんは自宅で最後まで自分らしく生きぬきました。

「在宅医療は、家庭医にとって大変やりがいのある仕事です。」

 在宅医療ではこのような倫理的な問題が生じることも多く、私たち医療関係者は単なる医学知識を持っているだけでは不十分です。在宅医療では患者さんが主人公です。徹底的に治療を受けたい人から何も治療したくない人まで、一人ひとりオーダーメイドの医療を行います。
 「③家庭医療の専門性」でお話しした家庭医の専門性ACCCC(身近で、なんでも、みんなで、ずっと、あなたの事情にあわせた医療)の本質が在宅医療にあると思います。生活している患者さん、家族、地域と関わる在宅医療は、家庭医にとって大変やりがいのある仕事です。

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